高校教師

私は、年に1度だけ高校教師の姿をする。

高校での私の使命は、「認知症を理解してもらうこと。」

そう、認知症サポーター養成講座を行うために私は教壇に立つ。

高齢者が多い日本では、若いうちから認知症のことを知った方がいいと思い、母校の教頭に相談に行ったところ、教頭は即答で、「よろしくたのむ。」と言ってくれた。そこから7年継続している。

「認知症を理解してもらい、おじいちゃんやおばあちゃんに、いつまでもやさしく接して欲しい。」

めずらしく、そんなピュアな気持ちで教壇に立つ私は、毎年恥をかいている。

高校生の熱い視線により、汗が止まらない。

「そ、そんなに私をみないでくれ。意識が高いのはいいのだが、今日はゆるくやろうよ。」

いつもそんなことを思っている。

怖くて生徒の方をあまり見れない。ビビりすぎて息継ぎがわからなくなり、一人ではぁはぁと息を切らすこともある。

気が付けは、スーツまで汗がしみている。青いはずのシャツが灰色に変色しているではないか。

よりによって女子生徒が多いこの教室で、毎年この様である。生徒諸君!笑うがいい!!

大人になって「あの変色シャツどんぐりが、認知症についてなんかしゃべってたなあ」

「認知症の人に接するとき、あのシャツドンなんて言ってたっけ?3つのなんだっけ?」

おいおい、変色シャツどんぐりを端折ってシャツドンにすなぁ。

誰が変色シャツどんぐりだよ!俺は、おしゃれ風能無しデカ髭はげだ!

言い過ぎだぞ!!

でもまあ、そんなことでも覚えてくれていれば十分である。

答えは

1. 驚かせない
2. 急がせない
3. 自尊心を傷つけない

の3つのないだ。

しかし、生徒諸君はもうすでに合格だ。

今日、こんな様の私に対し、3つのないを実践してくれた。

言葉に詰まっても、呼吸を整えても、誰もなにも言わない。

「かんだ!」っていうヤジがなければ、「クスクス」と隣同士笑い合う様子もない。

ただ、私の方を見ている。

私は今までこの誰も何も言わない時間を「講話でスベッた」と評価していたが、3つのないの実践の時間ということにした。スベッた後は後味が悪いが、スベッたと思わなければ気持ちが軽い。

3つのないは、される側にとってはうれしいことだ。

後から気づく、ほんのりした生徒の優しい気持ち。私は安心して45分話し続けた。

3つのないは、万人に通用する。人との関わりの基本である。

そんなことを生徒が気づかせてくれた。

提供するつもりで教壇に立っているが、学ばせてもらっている。

ありがとう高校生、ありがとう認サポ。

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